M-STyle

ポケモンとマスキングテープ

ちょ、ちょ、ちょっと待って!!!

午前保育になり、今日は忍者盛り上げの日。昨日、朝は用意した段ボールの特大手裏剣に色を塗り、さらに小さい手裏剣も合わせて仕掛けをしようと話していました。塗ると言っていたのはひとつ上の先輩。私は心の中で「画用紙貼った方が速いのでは……?」と思っていましたが、何も言いませんでした。先輩が大きな手裏剣なら、私は小さな手裏剣を仕掛け用に準備して仕掛けたらいいんだなと、勝手に解釈していました。分担って大切だもんね。

ところがどっこい、今朝新人の仕事(ゴミ捨てとかね)をして保育室に戻ったら、先輩がまだ来てない!? 焦った私は急いでポスターカラーを用意して大きな手裏剣を塗り始めました。時間がなくて泣きそうになりながら、心の中で「先輩休みなのかな、小さい手裏剣も仕掛け用に準備してない……どうしよう急がなきゃ」と、自分を奮い立たせました。

しかし、しばらくして保育室に、先輩がやってきたのです。何も言わずに。

ちょ、ちょ、ちょっと待って!!! 先輩がやらなきゃいけない仕事を私がやってるのに、ひと言もなしです? ちょっと待って? 私がやって当然と思ってます?

でも、先輩は来てすぐに小さい手裏剣の準備に着手。あぁ、私が大きい手裏剣を塗ってるから、代わりに小さい手裏剣を仕掛けてくれるのね……と納得。今何か言うと嫌味が出そうなので、声はかけませんでした。

朝礼が終わり、私は急いで園庭に大きい手裏剣を仕掛けに行きました。仕掛けているところを子どもに見つからないように、子どもが来ないうちにと急いで仕掛けに行きました。小さい手裏剣はまだ先輩が準備していたので、私は大きい手裏剣だけを仕掛けました。

大きい手裏剣を仕掛け終わり、保育室に戻ってびっくり。小さい手裏剣はそのままに、先輩がいません。すでに子どもたちが登園してきており、仕掛けをするには難しい状況になっていました。ちょ、ちょ、ちょっと待って!!! なんでいないの? 仕掛けが最優先だよ!?

私はまた泣きそうになりながら、こどもたちにみつからないようにコソコソと仕掛けをしに行きました。バレないように気を配っていたので、それなりの時間を要しました。保育室に戻ると、年少組の先生は私を含め2人だけになっていました。遊びチーム3人中、いるのは私だけ…… バタバタしながら私は園庭に出て、子どもたちと手裏剣探しを始めました。自分の仕掛けた手裏剣を、あたかも初めて見たようにリアクションするのは結構大変ですが、子どもたちの楽しそうな声を聞くと、そんなの気にしてられません。特に私はリアクションが薄くて有名(?)ですから、オーバーリアクションでも嘘っぽくならないでしょと開き直っていました。

手裏剣探しも佳境に達し、仕掛けた手裏剣を集めながら部屋に戻ろうと保育室の前を通りかると、そこでは劇場ごっこが始まっていました。私は「保育室の近くにある手裏剣は、劇場ごっこをしてる子も巻き込んで回収したいから、最後にしよう」と考えて、まずは遠くにある手裏剣から回収を始めました。子どもたちは「忍法、手裏剣の術!」と言って、私が手裏剣を取れるようにパワーを送ってくれます。もちろんパワーを送ってもらわなくても簡単に取れるのですが、これもひとつのお楽しみ。「パワーが足りないよ〜」「他のお友だちも呼んできて!」と言うと、子どもたちもそのテンションに乗っかってくれます。かわいいでしょ?

そしてとうとう最後、保育室の前の手裏剣を回収しようと戻ってきました。「パワーが足りない、みんな手伝って!」の声に、子どもたちが手伝いにきてくれる……と思いきや、ちょうど終わった劇場ごっこが、もう一度始まってしまったのです。

今日は忍者盛り上げの日ということは共有できていたはず、しかも劇場ごっこが終わるところを見計らって戻ってきたのに、劇場ごっこを担当していた遊びチームの先生が、また劇場ごっこを始めてしまったのです。さらに、劇場ごっこの子を巻き込んで手裏剣を回収しようと思っていたのに、逆に劇場ごっこに子どもが流れていってしまったのです。

ちょ、ちょ、ちょっと待って!!! 今日って忍者盛り上げの日……だよね?

泣きそうになりすぎて、顔を作るのに必死でした。涙で視界がにじむほど、ショックだったのです。声が震えないように大きな声で、子どもたちと手裏剣を回収しました。踏んだり蹴ったりで、やり切れない気持ちでした。

心が折れてしまったせいか、その後のお楽しみもバタバタして終わってしまい、なんだか心がもやもや…… 「忍者お疲れさま」と声をかけてくれた遊びチーム以外の先生に「バタバタですみません……」としか言えませんでした。

その中の先生の1人に、よく気がつく、気配りのできる先生がいました。「すみません……」と言った私に「みおりちゃん、よく頑張ったよ。最後の劇場ごっこ、なんだったんだろうね? 今日は忍者盛り上げの日でしょ!って思ったよね?」と声をかけてくれたのです。私は今日のもやもやを、自分視点ではありますが、その先生に愚痴ってしまいました。そして、私の頑張りを見ていてくれる人がいることを、本当に本当に嬉しく思いました。

踏んだり蹴ったりの1日でしたが、なんとか乗り切れました。私も、気が付ける、気の配れる先生になりたいと、切に思いました。

おしまい。